2010-01-01から1年間の記事一覧

手紙

石段を登って、深大寺の山門をくぐると、なんじゃもんじゃの木の下に、彼女が立っていた。セーラー服の制服に紺のベスト。目印になる白い大きな封筒を抱えて、少し不安そうに周囲を見回している。おでこに散らばっているにきびの痕。近寄るのに少し勇気がい…

黒いマント

今日は、かなちゃんの幼稚園でバザーが開かれる日です。かなちゃんの幼稚園のバザーでは、幼稚園のお友達のおうちから、要らなくなったものが、品物として売りに出されます。でも、それだけではありません。幼稚園のお母さんたちが色々と工夫して作った、手…

あなただけが私の空気。私はあなたを待って過ごし、あなたが遅いと死んでしまったのかと思い、もしそうだったら私も死のうと思い、あなたが帰ったら生き返ったようになり、またあなたが出かけると死ぬほど怖かったわ。今はあなたが話して下さるから、私息が…

月夜の大魔神

調布駅前の踏切から南にまっすぐ下っていくと、ゆるやかな坂道の左側に、映画撮影所が現れます。その入口にぬっとそそり立っている巨大な二つの立像が、大魔神です。大映時代劇特撮映画の傑作、「大魔神」に登場した巨神像。映画の迫力そのままに、道行く人…

かなちゃんとすいかバス

かなちゃんの小学校から、一番近いバス停は、電車の駅のそばにあります。 ある雨の日の帰り道、かなちゃんは、いつものバスに乗り遅れてしまいました。 教室に、お弁当袋を忘れたのに気がついたのは、学校を出て、随分歩いた後でした。 お友達の、ちほちゃん…

風船の夢と銀杏の葉〜年老いた風船売りが物語る〜

風船の夢、なんてこと、考えたことはあるまいね。 こういう商売をしていると、風船の心が分かるんだ。ヘリウムをいっぱいため込んで、パンパンに膨れた風船は、この指が痛くなるほどに空への思いを伝えてくる。細い凧糸一本だけで私の体につながれて、空よ空…

夜中の13時

かなちゃんがそのお店で見つけた時計は、とっても不思議な時計でした。 かなちゃんが、パパやママと一緒に遊びに行ったホテルの地下に、そのお店はありました。 お人形や、きらきらしたガラス細工のおもちゃや、綺麗な日本人形なんかが、所狭しと並んでいる…

幽霊と花火大会で

ひょっとして、親父がそっちに行くかもしれない、と、星也に言われていたから、浴衣を着終わって、ひょい、と覗いた鏡の奥に、星也そっくりのおじさんの背中が見えても、私はあんまり驚かなかった。半被姿の、広い背中。 「おじさん、着替え覗いてたの?」と…

かなちゃんのせんたくき

かなちゃんの せんたくきが こわれてしまいました。 はいすいホースが つまってしまったのです。 かなちゃんのママは、こまったかお。 「これで こわれるのは にどめよねぇ。 さいきん せんたくものの しあがりも よくないし・・・ あたらしい せんたくきに …

ふみちゃんは天使になった

かなちゃんは、幼稚園の大きい組さんです。 来年の春、幼稚園を卒業して、小学生になります。 3年間、年少さんの頃からお世話になった幼稚園。いよいよ最後の1年間。 もうお姉さんなんだから、なんでも一人でできるんだ。 友達だって一杯いるんです。幼稚…