2011-01-01から1年間の記事一覧

オリジナル・オペレッタ 「昭和ローマンス『扉の歌』」その1(プロローグ〜第一幕途中まで)

登場人物:(登場順) 黒田子爵(黒田喜一郎): 軍部の独走を抑えようと画策する政界の黒幕 斉藤(斉藤彰浩): 黒田子爵に共感する穏健派軍人 沢渡真美子: 「扉の歌」を知る歌姫。 柏崎源一郎: 真美子の出演するカフェ「モンマルトル」の常連。売れない…

大地讃頌

母なる大地を 平和な大地を 大地を誉めよ、誉めよ、讃えよ (大木惇夫 作詞 佐藤眞 作曲「大地讃頌」より) ああ、春江さん。 来たのね。やっぱり来たのね。来ると思ってた。 今、最終曲ですよ。もうすぐ、終演。ちゃんと間に合ったのね。本当に、よかった。…

オルゴオル

雪になった。 一面がれきに覆われた街の残骸の中に、米軍と自衛隊が切り開いた道が一本伸びている。がれきの上にも、道の上にも、真っ白な雪がしんしんと降りてくる。 あきらめて、そろそろ帰ろうか、と思った。日が暮れてきている。電気はまだこのあたりに…

水のいのち その2

降りしきれ雨よ 降りしきれ 全て許し合うものの上に また許しあえぬものの上に ~高田三郎作曲 高野喜久雄作詞「水のいのち」より~ この漢字は、なんて読みますか? さんしょう、ですか。たたえる?あ、ほめることね。なるほど。大地讃頌。大地を誉める、って…

ダニロと小源太と忍者のお話

かなちゃんはアメリカに行くことになりました。 パパのお仕事の関係で、ニュージャージーという所に住むのです。 調布のおうちで、かなちゃんと一緒に住んでいる、たくさんのぬいぐるみのお友達もみんな、ニュージャージにお引越しです。 中でも、かなちゃん…

鹿

昔、村の娘ん子が、山ん子を好きになった。 山ん子は、山人の子供だ。村の者のように、田畑耕して、暮らしを立てている者の子ではない。山に分け入り、木の実や獣を食って生きている者の子だ。木で細工物を作り、獣の肉を乾し、茸や漆を取って村に売りに来て…

夢見たものは

夢見たものは 一つの幸福 〜中原中也作詞 木下牧子作曲「夢見たものは」より〜 パート別性格診断って、覚えてる?ほら。大学に入った時にさ。先生が言ってた。 声と性格って、結構関係あるよねって、先生。ニコニコしながらさ。覚えてる? ソプラノってのは…

そうです。確かにあの男です。 顔だけは見分けがつきましたから。あんな状態でも、すぐ分かりました。確かに、あの男でした。 娘は大丈夫だと思います。これからどうなるか分かりませんけど。 小さい頃のショックって、忘れてしまうようで、心の奥に傷を残す…

怪獣のバラード

でかけよう 砂漠捨てて 愛と海のあるところ 〜岡田冨美子 作詞 東海林 修 作曲 「怪獣のバラード」より〜 橘くん、どこに行ったか、知らない? 水野さん?ああ、あのおじいちゃん?ピアノのある部屋に行ったの? こんな本番直前まで?練習熱心なのねぇ・・・…

宝石の歌

あなたなの、マルガレーテ? 答えて頂戴、早く答えて いいえ!いいえ!もうあなたでは無くなっているわ! もうあなたの顔では無くなっているわ! 〜グノー作曲「ファウスト」より〜 君はこのメールを見て、すぐに私の家に駆けつけるだろう。そこで君が見るも…

小さな空

いたずらが過ぎて 叱られて泣いた 子供の頃を思い出した 〜武満徹 作詞作曲「小さな空」より〜 ごめんなさい、まだやってる?チラシの挟み込み。 ちょっとね、さっきの親子が気になって。なんか、いないのよ。一度入ってきたのにね。 そうか、お昼時だからね…

100枚目の五円玉

授業中に回ってきたメモには、サトルの名前があって、「放課後、校門に集合」とあった。タダオとミッチーのサインが入っていて、僕はメモの端に自分のサインを書いて、サトルにメモを返した。何が話題かは分かっていたけど、何が目的かは分からない。サトル…

遥かな友に

お休み、安らかに。たどれ、夢路。 お休み、楽しく。今宵もまた。 〜磯部俶 作詞作曲「遥かな友に」より〜 あれ、やっぱり違いますか?おかしいなぁ。 もう一度、ピアノで弾いてもらえます?すみません。 ・・・そうですね。違うみたいですね。 いや、よく分…

パミーナの父たち

リンカーンセンターの前でイエローキャブから降りると、広場の中央の白い噴水に、彼が腰かけているのが見えた。大きなカラスが背中を丸めて座っているように見える。俺よりも20センチは高いはずの長身が、ずいぶん小さく見える。こちらを認めて、立ち上が…

赤駒を送る

あなたが旅立つ前に、このお馬のお人形を渡してあげてって、娘は言いました。自分から渡せばいいじゃないのって、私は言ったんだけど、娘は顔を真っ赤にして、そんな恥ずかしいことできるもんかって呟いて、そのまま階段を駆け上がって、今は自分の部屋に閉…

シャクトリムシの新体操

かなちゃんは裏庭で、新体操の練習の真っ最中です。もうすぐ発表会。ボールを使ったダンスは難しくて、振り付けを覚えるだけでも大変なのですけど、悩みはそれだけではありません。最後のシークエンス、ボールを片手に持ったまま、片手で側転を決めた後、「…

水のいのち

のぼれ、のぼれ、のぼりゆけ そなた、水の焦がれ そなた、水のいのちよ ~高田三郎作曲 高野喜久雄作詞「水のいのち」より~ まだ時間あるよねぇ。お昼食べて、ゆっくりして行こうか。 何?ちょっと、あのサイレンの音なんやろうねぇ。あんなに喚きたてんでも…

女は全てこうしたもの

私はブルネットの方を選ぶわ。とっても洒落てて素敵。 じゃ、私はブロンドの方ね。なんだか笑っちゃいそう。 ~モーツァルト作曲「コシ・ファン・トゥッテ」より~ 私時々思うの。 あなたのあの一言が、私の一生を決めたんだって。 あなたにとっては、ちょっと…

飛行機公園と竹とんぼ

調布飛行場目掛けて、小さなセスナ機が、急に舞い降りてきた。空中に突然現れる感じで、いつも驚く。飛行場に近づく小さな機影を前もって見つけるのは難しい。プロペラの音が聞こえて見上げた時には、窓の中のパイロットの顔さえ見えるほどに、既に飛行機は…

もぐらの応援団

かなちゃんの小学校からの帰り道です。いつものようにバスから降りて、おうちに向かって歩いていると、道のそばにある畑の中から、小さな沢山の声が聞こえてきました。一斉にリズムを取って、同じ言葉を声を揃えてしゃべっているようです。何の声かしら、と…

娘は、蛍と呼ばれていた。それが本名かは知らない。放蕩の果てに、私が見つけた、苦界の中の小さな花だった。 何度となく廓に通い詰め、気を楽にして語れるほどに昵懇になると、蛍の口の端からは、時折、耳慣れぬ抑揚の言葉がこぼれた。それは北国の言葉で、…

オレンジの花は香り

母さん、この酒は強いね。 ~マスカーニ作曲「カヴァレリア・ルスティカーナ」より~ 風が気持ちよさそうだ。あの展望台に車を止めて、少し休もう。 あそこに見えるのはみかん畑だろうか。そう思うと、あま酸っぱい香りがここまで漂ってくるようだ。時々こうや…